ひと雨ごとに
- 2008/06/06(Fri) -
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今日のガクアジサイです。ひと雨ごとに成長していますね。肥料など
全く手間をかけていないので、以前よりもブルーが薄くなってきたよう
です。今年は花が終わったら、適当な時期に肥料をやってみましょう
かね。

下記のアジサイも会社の庭に植えられているものです。ウェディング
ドレスのようなアジサイだなぁ~なんて思いながらシャッターを切りま
した。上品な色合いですね。満開より、きっとこの状態が美しいのでは
ないかと思いますが。

四国地方。明日は晴れそうです。Tessen's Cafeへお立ち寄り下さった
みなさま、よい週末をお過ごしくださいね!
                                 鉄線
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『テグス』 3
- 2008/06/06(Fri) -
「テグス」 (5月31日掲載以降)


 それから、二日経っても、四日経っても宇佐美は麻亜子の
マンションに現れなかった。麻亜子は宇佐美が忘れて帰った
メッキの剥げかかったタイピンを指で何度も弾いた。
「‥‥宇佐ちゃんも他と同じで零点」
 麻亜子は本棚のどっかに差し込んでおいた伊曽保出版の
百科事典のパンフレットを何百冊の雑誌の中に探していた。
宇佐美を尋ねてみようと思ったのだ。タイピンを届けるなど自
分への口実だった。そんな口実を作り、わざわざ伊曽保出版
まで出掛けようとしている自分が麻亜子は信じられないでいる。
去った男を追うなどという未練たらしいことをするのは初めてだ
った。それに相手は妻帯者である。だが、麻亜子はどうしても
宇佐美が本当は零点だったのか確かめたかったのだ。否、そ
れ以上に麻亜子は宇佐美の心のシミが気になって仕方がなか
ったのだ。麻亜子にはくたびれたタイピンに宇佐美が重なって
見えた。
 古い雑居ビルの一フロアに宇佐美の会社はあった。事務所に
入ると、家で見てきたパンフレットと同じ百科事典が所狭しと並
んでいる。昼時なこともあり、女子社員と上司らしいのが三、四
人、それぞれのデスクで昼食を摂っていた。そこに宇佐美の姿
はなかった。病欠だった。そう告げたのは宇佐美と同期の近藤
という営業部長である。
「遅ればせながら水疱瘡だと言って笑ってましたよ。宇佐美は
独り者だから干涸らびてないかどうか昨日見舞いに行って来た
んですよ。奮発して高いメロンまで買って、勿論、経費で落とし
ますけどね。来週辺り出社してくるんじゃないですか。えっと、
通販の商品を送るんでしたね?あいつ、通販で物を買ったりす
るんだ。で、何買ったの?」
 麻亜子は近藤のことがすぐイヤになったが、宇佐美と同期と
いう無神経の塊から宇佐美のことをあれこれ婉曲に聞き出した。
近藤は「ここだけの話ですがね」とわざわざ前置きし、質問以上
のことをまるでそれが自分の知識であるかのように得意げに話
す男だった。コソコソと宇佐美のことを聞き出している自分が麻
亜子はイヤだったが、独身と聞かされ、自宅の連絡先だけを聞
いて引き下がるわけにはいかなくなったのである。
 
 三十分ほどして麻亜子は会社を後にした。麻亜子は疲労感に
包まれていた。道路から宇佐美の会社を見上げると三十分前よ
り会社が色褪せて見えた。あんな思いやりの欠片もない男をど
うして営業部長にしておくのだろう。あの男の給料の一部になる
と思うと、伊曽保出版の百科事典なんて絶対に買うものかと麻
亜子は思った。だから、サラリーマンはイヤなのだ。差ほど仕事
の能力がなくても上に向かってゴマを摺れるしたたか者は部長
も夢ではない。同僚や部下には見え見えの大根芝居を見抜けな
いトップの目も節穴で、何処の会社も所詮同じなんだ、と麻亜子
は怒りでカッカした。麻亜子はそんな保守的で融通の利かぬ古い
体質に嫌気が差し、五年前、起業家になったのである。
 近藤以上に腹立たしいのは宇佐美である。宇佐美は嘘を付い
ていた。宇佐美には奥さんも子供も居なかったのだ。どうして一
年も妻帯者を演じていたのか。
 二十年前、会社の同僚だった優実と結婚した宇佐美は十五年
前、不妊が原因で離婚した。
「学生時代にラグビーをやってたとかで、私なんかよりずっといい
身体してるのに、奴、種なしなんですよ。で、嫁さんから逆三行半。
これもここだけの話ね」
 結婚後、二年経っても四年経っても子供ができなかった宇佐美
は、妻の優実のほうに不具合があると思っていた。だが、本人が
希望してそんな身体に産まれてきたわけではないし、ましてや自
分が選んだ女だからとそのことには触れずにきた。産まれなければ
産まれないで構わない、宇佐美は寛大だった。だが、それは宇佐
美だけで、何となく自分に非がある空気を宇佐美だけでなく、周囲
から感じていた優実は、宇佐美に内緒で病院で検査を受けた。そ
して、自分に不具合がないことを確認した後で「一度、一緒に診て
もらわない?」と違う病院へ出向き、宇佐美に非があることを教えた
のである。
 自信満々で病院に出掛けたであろう宇佐美の検査後を想うと麻
亜子は胃が痛んだ。検査後、「やっぱりね」というセリフを残し、実
家へ戻ってしまった優実を同じ女として麻亜子は許せなかった。
優実の心はできなければできないで構わないという宇佐美の心と
は余りにも懸け離れていて、そんな優実の冷たさにこれまでの自
分の惨めな恋愛が蘇っていた。その上、宇佐美に付かれた嘘を思
うと麻亜子は泣けてきた。
 
 麻亜子は宇佐美のマンションに行く途中、外人モデルが大きく写
し出されたヘアカラーの販促ポスターが貼られた美容院の横を通っ
た。アッシュブラウンに髪を染めた笑顔のキュートなモデルに惹かれ、
気が付けば美容院の中にいた。
 麻亜子はポスターと同じ色に髪を染めた。衝動的だった。女でなく
なるような気がして髪を染めるのを頑なに拒み続けてきた麻亜子だ
ったが、染め上がってみれば案外何でもなかったし、滅入っていた
気分も染め色の明るさの分だけ軽くなった気がしていた。
「‥‥これでお払い箱ね」
 美容院を出た後、仕立屋のショーウィンドウに映る別人に向かって
麻亜子はそう呟いた。その顔に縦皺があるのを見つけ、麻亜子は急
いでポスターのモデルのように微笑んだ。中から仕立屋の主人がニ
ッコリ微笑み返すのが見え、麻亜子は小走りでその前を走り去った。

 (つづく・次回掲載は随時です。)
                               鉄線
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