
面白そうな写真集を見つけ、お取り寄せした写真集というのが、
この3冊。『由良半島』、『宇和島』、『段々畑』と三部作になって
いるのですが、宇和島市出身(愛媛県)の原田政章という写真
家の作品です。
『由良半島』をめくった瞬間、数え切れないほど、気が遠くなるほ
どの階段状の段々畑の写真を見た時には、鳥肌が立ち、感動を
覚えました。「耕して天に至る」と言われていた宇和島の段々畑。
天へ天へと近づくその一段一段が、時を刻んできた年輪のようで
あり、年を重ねてきた勲章とも言える先人たちの深い皺のようでも
あり‥‥、たった1枚の段々畑の写真から、いろんなことを感じ、
想うことができます。それくらい迫力のある初っぱなの1枚でした。
この写真集は、昭和20年~30年代の四国西南部・宇和海沿岸の
暮らしを写した記録写真であり、写真だけでなく、写真に添えられた
文章も、とても味わい深く、読みながら「うまいなぁ!」と思わず唸っ
てしまう表現もあり、やはり、「撮る」と「書く」は別物ではなく、確か
に繋がっている‥‥と、この写真集を見ながら、読みながら確信し
ました。
段々畑で甘藷と麦を作り、漁をして暮らす。水道が敷かれたのは
昭和48年頃と書かれていたと思います。それまでどうやってこの
段々畑の甘藷や麦に水をやっていたか。炊事や風呂も大変だった
ことでしょう。今より、ずっとずっと生きてくのが大変だっただろうと
思います。でも、写真を見ていると、大人も子どもも年寄りも笑顔の
美しいこと。たくましいこと。生き生きしていること。すぐ投げたりしな
いんでしょうね。今では考えられないところに力こぶができているの
を発見すると、このねばり強さ、地味だけど、堅実に働き、精一杯、
与えられた環境下で暮らしてゆくことの大切さを教えられます。暮ら
しが豊かになるにつれ、人は過去にかけがえのないものをたくさん
置き忘れてきたようです。取りに戻ることは‥‥、取りに戻ることは
可能だと思います。その努力をするか、しないかだけのことで。
原田政章さんの撮られたこの写真集は、どれも温かく、慈しみの心
で溢れているように感じます。"愛"ですね、"愛"です。写真家の
人となりなのでしょう。この写真集は今まで見てきた写真集とは明ら
かに違いました。これまで見てきた写真集からも、いろんなことを感じ、
想いをめぐらせてきましたが、生きるとはなんぞや、みたいなことを感
じさせてくれたのは、この写真集が初めてですね。丁寧に"記録"され
ているこの写真集は、文化人類学や民俗学の貴重な資料、それから、
日本の財産になっていくのではないでしょうかね。写真というのは、賞
を取るための垢抜けた隙のないものだけでなく、こういう導き、役割を
果たすことができるのですね‥‥。とても素晴らしいことだと思います。
ほんとに。
この三部作を見終え、読み終え、私の頭の中には"ひたむき"という
言葉が浮かんでいます。"ひたむき"に生きる者がバカを見ない世の
中になっていけばいいのに、と思います。"ひたむき"に生きる者が
「本を読むことも、文章を書くこともできない」状況に追い込まれない
ような世の中になっていけばいいのに、と思います。
鉄線