

『蒼風』 (「第65回 徳島県美術展写真部門」入選・2010/10)
鉄線
展示期間中、あわぎんホールまで、わざわざ作品を見に来て下さった
皆さま、どうもありがとうございました。
これは、2枚で一つの組写真なのですが、一見、異なった色調の写真
を2枚、組んでいるように見えますが、実は、同じ2枚の"青"で
(これは、感覚としての"青"なのですが...、)色調を揃えています。
そして、2枚の中で、"風"を捉えていますね。タイトルの『蒼風』は、
そんなところからきています。
どちらも、私の古里で今年の春から初夏にかけて撮影したものです。
写真を撮り始めたからか、齢を重ねたからか、最近はよく古里に帰っ
ています。古里を歩きながら、恋人達が愛をささやいているかのごとく
揺れる草(この丈の長い草、通称Love Grassと呼ばれているそうな
のですが、)を見た時、私の脳裏には"限界集落"という言葉が浮か
んでいました。緑の中にひときわ濃い緑があるのがお分かりでしょ
うか。ゆず、もしくは、すだちの木です。元々この場所はゆず、すだ
ちの木が植えられていた畑だったのですが、世話をする人がなく、
いつの間にかこのような荒れ地になってしまいました。元々は田んぼ
として使用していたかもしれません。私はこの場面に出会い、そこに
"無常"を感じて一枚、シャッターを切っています。山村に行くと、こう
いったLove Grassの田んぼや畑がたくさん在り、私的には少し切なく
なる風景でもありますね‥‥。
私の古里は周囲ぐるり杉山に囲まれています。人はだんだん老い、
少なくっていきますが、またそれを切なく感じてもいますが、帰郷する
たび、あぁ、山はいつも変わらないなぁ、と、そこに"常"を感じています。
だから、私は古里を何度も訪れるのかもしれません。その山を鳶が
いつものように悠悠と舞い、迎えてくれます。同じように見え、実際は、
山は同じではないし、鳶も同じではないのでしょう。ゆく川の流れは
絶えずして、しかももとの水にあらず、の世界なのですが、存在の大
きなものはいつも同じように見えてしまいますね。この2枚の写真は、
別々の日に撮影したものですが、そこに同じものを感じ撮っています。
異なったように映る感情も、色調同様、同じトーンで撮影しています。
古里だけでなく、いろんな集落を歩きつつ、感じつつ、これからも撮っ
ていきたい、いけたら、と思っています。
別々に撮った2枚の写真から『蒼風』という作品が出来、私はこの作品
がとても好きなんですね。この作品にめぐりあい、自分の中の写真に
対する想いが確実に変わったような気がしています。
鉄線