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『蒼い記憶』 2
- 2008/11/19(Wed) -
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『蒼い記憶』

 そんな経緯で私は坂崎詩朗と付き合い始めた。一方的な想いが
あまりにもすんなりと受け入れられ、内心、恐いほどだったが、そん
な杞憂が掻き消されるのも時間の問題だった。坂崎は寡黙だったが、
とても優しかった。恐縮するほど、あれこれ気遣ってもくれたし、実際、
気の利く男だった。平日の昼は時間を合わせ、外で一緒にランチを
食べた。また、夜は夜で欠かさずに会った。坂崎とわりない関係に
なるのも差ほど時間はかからなかった。
 信じがたいほどの夢心地な日々が約1年、このまま順調にゆけば
間違いなく結婚だった。だが、1年を境に、坂崎と会う回数が次第に
減り始めた。仕事が忙しくて時間が取れない、というのだから仕方が
なかった。もう少しすれば一段落するから、という言葉が聞けたから
こそ、イライラしながらでも待っていられた。それらの嘘の数々が、坂
崎からの別れの前奏だとは少しも気づかずに‥‥。気づけなかった。
坂崎からの連絡は日を追うごとにますます少なくなり、鈍い私の心に
もようやく疑いの波が立ち始め、こちらからの連絡がうまく交わされて
いると気づいた時、それを問いただそうとする私より先に、坂崎から
別れを宣告されたのだった。それは、坂崎らしくない、相手に有無を
言わせぬものだった。

 坂崎にはよそに女がいた。しかも、坂崎より6つも年上で、始まりは
私の恋とほぼ同時期だった、と話した。それ以外は何をどう尋ねても
口を閉ざしたままだった。坂崎には私との恋が遊びだったのだろうか。
それとも、私との愛が本当だったのだろうか。本当なわけはなかった。
あの時、坂崎の取った半端な態度が4年経った今でも心から消えない。
私はどうして紙屑みたいに、ある日、突然捨てられたのだろう。
 割り切れない思いとは裏腹に、私は何の恨み言も言わずに坂崎と
別れた。あれほど病み、やっとの思いで得た坂崎の手をなぜ、言われ
るがままに放してしまったのか。別れるのは嫌だ、と駄々を捏ねれば
私のそばに残ってくれたかもしれないのに。捨てられたとわかってい
ても、私は坂崎のことが好きだった。愛していた。とても楽しかった1年
を思うと、坂崎を責められなかった。私の曲がなさ、不甲斐のなさが原
因だったのかもしれない。決して、坂崎だけに問題があったのではない
というおめでたい思いが私の中にはあり、ビルの中で偶然会えば、以
前と同じように私は挨拶をした。
 そんな未練がましいような、芝居じみたような空気を感じとってか、坂
崎が突如、行方を眩ませた。「探さないでもらいたい」とだけ書き置きを
して。会社の同僚も、家族もその行方を掴めなかった。顧客から依頼さ
れていたソフトは完成してあったという。それを同僚から聞かされた時、
私は坂崎の身に何かただならぬことが起こったのだと思った。自分を慰
めるためにもそう思いたかった。捨てた女と顔を合わせるのが嫌で姿を
消したとは思いたくなかった。坂崎の律儀さや責任感、優しさや思いや
りが仕事だけに働くとは思いたくはなかった。

 それ以来、デートの誘いには一切、取り合わず、見合い話にも耳を傾け
られずにいる。坂崎のことが未だに吹っ切れないからかもしれない。坂崎
を今でも愛しているのかどうか、自分でもよくわからなかった。確かにわか
っていることは、まだ見ぬ先の悲しい結末ばかりが頭をかすめ、人を愛す
るのが恐くなってしまった。一途なやり方しかできない自分が恐かった。
私はたった一度の恋に破れ、参ってしまった。それほど大きくはないと感
じたあの時の心の傷が未だに塞がらずに癒えない。あれほどの苦い思い
はもうたくさんと、心が異性を受け付けられないでいた。
 このパークホテルにもできることなら来たくなかった。母の頼みでなけれ
ば、間違いなく受けなかった。断るとわかっていながら見合いするのは心
苦しかった。ホテルの最上階で、こうして1時間以上も見合い相手を待ち
ながら、これからやって来る高地という男の前では癇に障る嫌な女に徹し
ようと考えていた。そんな意地悪なことを考えるだけの時間は充分あった。
高地は本当に遅かった。私は約束の30分前に到着したから、かれこれ
1時間半も待っていることになる。正直、待たされるのは気分のいいもの
ではなかったが、今日は違った。このまま会わずに済むなら、そのほうが
よかった。
(後、30分待って来なければ帰ろう)
 目の前のバニラアイスは既に液化している。厨房からの肉を焼く匂いに
ふと口寂しくなった私は再びコーヒーを注文した。その折、バニラアイスの
器を下げようとするウエイターにそのままにしておくよう頼んだ。20過ぎの
ウエイターは今夜の見合いを仕組んだ伯母の四男だった。付き合いの薄
い親戚なこともあり、その従弟のことは名前しか知らなかったが、明朗で
人懐こい印象を受けた。
 そして、その従弟と入れ替わるように、高地壮一朗が現れた。   

    (つづく・次回更新は任意です。)
                                  鉄線

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コメント
- 待ってました。 -

今回の小説も、とっても楽しみにしてます。
いつも、いいところで「続く」ですね。
読者の心をがっちりつかんでます。
早く続きが読みたいv-10
2008/11/20 12:23  | URL | ぽん吉 #-[ 編集] |  ▲ top

- ほんまかいな -

>今回の小説も、とっても楽しみにしてます。

ほんまかいな〜。アハハハ。昨夜、こんだけ
載せるのに、えっとかかりましたわ〜。載せて
すぐ寝ましたが...。次回、おたのしみにね!
2008/11/20 12:44  | URL | >ぽん吉さん #-[ 編集] |  ▲ top

- ホンマぢゃ〜 -

ポン吉さんがカキコしているように、え〜ところで次回・・・。
早く、続きが読みて〜ぇ!!(北島康介風に)
パークホテル・・・格式があって良かったですよね。
レストランから、徳島公園の庭園が見えて、いいロケーションだったのに・・・
サラダのドレッシングが好きでした。

新聞の連載小説は『徒然王子』、朝日新聞に掲載中なんです。
2008/11/20 16:10  | URL | らびぞう #-[ 編集] |  ▲ top

- パークホテル -

これを書いてた頃は、まだパークホテルがあったと
思いますが...。だから、あえて違うホテル名を
使用し、投稿しました。それを今回、ブログに載せ
る段階で、昔、使いたかったパークホテルに直して
載せています。ええ、格式があって、立地条件も抜
群でした。

小説は朝日新聞のものでしたか。そういえば、読者
の手紙は、わざわざお姉さんとこで見てくださって
いるのでしたね?!ありがとうございます。
2008/11/20 16:37  | URL | >らびぞうさん #-[ 編集] |  ▲ top

- 楽しみ -

私もこっそり読ませてもらってます。
続き楽しみに待ってます。
2008/11/22 09:39  | URL | ベルママ #-[ 編集] |  ▲ top

- こんにちは -

ベルママさんも読んでくれているのですか。
ありがとうございます。m(_ _)m
今日あたり、「3」を載せる予定です。

今日はそっちも、いいお天気ですか?
2008/11/22 09:53  | URL | >ベルママさん #-[ 編集] |  ▲ top


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